2015年 05月 09日
昭和 陸拾肆
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猫に小判の夢破れる




アイルランドに、アイルランドで、何があったのか?

昨日載せた対外債務GDP比で1267%という恐るべき数字を叩きだしていたアイルランドに驚いた方もいたのではないでしょうか。

じゃがいも基金ジャガイモ飢饉(どくいりきけん)でお馴染みのアイルランド。
いったいいつの時代のことだとお怒りの方々もいるかもしれませんが、長きに亘ってヨーロッパの最貧国の1つに数えられ、人口流出が著しかった国であることは否定できません。
そんなアイルランドに大きな変化が訪れたのが1990年代。
EU加入とアメリカ企業の進出、外国からの投資などにより急成長を遂げたアイルランド経済。
1995~2000年の経済成長率は10%前後となり、世界で最も経済成長を遂げた国の1つに数えられるようになって、「ケルトの虎」や「ケルトの奇跡」と呼ばれるまでになった。
その後も2007年までは順調に経済は成長し続けた。
以前わたくしもこちらの記事でアイルランド出身のボノさん繋がりで、ケルトの虎についても触れました。

デル、インテル、マイクロソフトといったアメリカの大企業がこぞってアイルランドに進出し、「高い教育レベルであるにも関わらず安価な労働力を持ち、ネイティブ英語だから話もすんなり通じる♪」と謳われ、さらにはアイルランド政府が外資企業に税制上の優遇措置をとったものだから、虎の子がわさわさと集まり活況を呈したのだった。
稼ぎ頭は工業、つまり製造業であった。
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アイルランドに暗雲が立ち込めたのはEUがユーロを導入した頃だ。
導入は1999年1月1日から。最初は決済用仮想通貨(電子通貨)として導入された。
つまり最初はユーロの現金は存在しなかった。3年後の2002年1月1日に初めて現金通貨となった。
アイルランドは他の10カ国と共に1999年のユーロ立ち上げ時から参加している。
御存知のとおり、ヨーロッパ主要国の1つでEU加盟国でもあるイギリスはユーロを導入していない。
EU加盟国は通常ユーロを導入しなければならないが、イギリスとデンマークは適用除外規定によってその義務が免除になっている。
イギリスがユーロ圏に入らなかったことで、俄然日の目を見たのがアイルランドだった。
何故かと言えばそうネイティブ英語だったから。
ユーロ発足に伴い、今度は金融機関が多数アイルランドに進出した。


バブルの正体

1999~2000年、アメリカ市場を中心にITバブルが起こった。
IT関連企業の株価が異常に高騰したのである。(バブルというのは基本しがない庶民には関係ないものです)
電子仮想通貨であるユーロが導入されたのと前後する1990年代終わり、コンピューターを用いた電子取引が実現したことによって、ハイテクで目新しいIT産業に投資家が傾倒したのである。
日本の生命科学や創薬への期待や持て囃されぶりはあの当時のアメリカのITブームによく似ていると思う。

低金利で資金調達が容易であったことに加え、上記ITブームによって起業が盛んに行われた。
ブームというのはやはり空気なので、大抵は細かい所にまで目が行き届かず、多くの事が緩く寛大になる。
コンピューターの専門性も相まって、小難しいことを難しく分かりやすいことを大げさにプレゼンすれば、投資家は資金を融通してくれた。

この図をもう一度。
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1995年は超円高ドル安になっていることが分かると思う。1ドル80円を切ってきたのだ。
この時G7でドル安を是正しドル高に誘導することを決定した。1985年のプラザ合意とは逆の方向で為替誘導したのである。
アメリカが金利を上げたことから、世界中のマネーがアメリカに集まるようになった。
そして1990年代末(オレンジ線)には1ドル150円近くにもなっている。

1995年を境にアメリカの金利は上昇するのだが、世界中から集まりダブついた資金が金利上昇への警戒を無きものにし、ブームは減速することなく株価を上げていった。
こうした株価上昇の最中に株式を公開したベンチャー企業の創業者は莫大な富を手にし、アメリカンドリーム(シリコンバレードリーム)を手にした。
これが尚一層、ITや起業やベンチャー企業ブームに拍車をかけて現実を見えなくしていた。
これがITバブルである。
バブルに喜んでばかりはいられない。世界中のマネーが集まるということは対外債務が膨らむということである。
アメリカの経常赤字は激増してしまった。(でもアメリカは基軸通貨だからね)

しかしそれも束の間、2000~2001年にかけてITバブルは崩壊した。バブルは必ず弾ける。
ベンチャー企業家らが金利上昇に気付いた時には株価も急速に下落していた。
アメリカを待っていたのは不況である。IT関連のベンチャー企業の多くは破綻し、多数の失業者を生み出した。
生き残った企業がその後に世界的な企業として躍進したのだ。
2001~2003年にかけてアメリカは金利を引下げて、円高ドル安に誘導した。
この低金利政策が今度はアメリカに住宅バブルをもたらし、後のリーマンショックにも繋がることになる。
2004年には金利を再び上昇させたが、何故か住宅バブルは終息しなかった。
金利上昇に誘導したにも関わらず長期金利は低迷したままで上がらなかったのだ。
FRB議長はそれを「謎」と言ったそうである。
そして2008年9月、リーマン・ブラザーズの破綻によって、バブルは勢いよくバーンと弾けた。

金利を下げた時は、国債が捌けない。
そんな時に重宝するのは、アメリカにとって最も重要な同盟国の1つであり、Tomodachi国でもある日本ではないでしょうか。(最も重要な同盟国の1つってよくアメリカが使う言葉。訳で聞いただけだけどね。最も重要な同盟国は全部で幾つあるんですか?)


金融緩和の罠~緩和という優しそうな言葉に騙されるな~

ITバブルの崩壊はアイルランドも直撃した。
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バブルの弾けた2000年頃から経常収支がマイナスに傾きだしている。
2004年から2005年の下降は著しい。

IT関連企業への投資を活発にしたバブルが弾けた影響はアメリカのみならず世界経済にも波及した。
世界中からマネーが集まっていたということは、リスクも世界中に拡散されるということなのだ。
破綻や著しく業績が悪化した企業に投資されたマネーは回収できなくなることを意味する。
従ってアメリカのみならず、こうしたIT企業と密に関連を持っていた国や積極的に投資をしていた国でも、IT関連企業の成長率は低下し、気鬱な空気が流れるようになる。

ヨーロッパでこの空気が濃かったのはドイツだった。
ドイツは景気を刺激するために金融緩和(金利引き下げ)を実施した。
ドイツの金利引き下げと言ってもすでにユーロが導入されていたので「ユーロ」である。
ドイツはユーロ圏経済の中心であるからして知らんぷりは出来ない。運命共同体、挙圏一致、玉砕覚悟。
ドイツのみならずユーロ圏全体が同じ政策に則っるのだ。投資をしてようがしていまいが、ITに関連あろうがなかろうが、一緒くたである。
アイルランドにはひたひたと新たなバブルの音が鳴り始めていた。


アイルランドの破綻

アイルランドには国内資本の大企業や産業がほとんどなく、外資による貿易に多くを依存するという経済構造にある。
しかしながらアイルランドの財政収支は2007年までバランスよく推移していて悪い状況ではなかった。
またアイルランドの稼ぎ頭であった製造業も生産量においては大きな変化はない。安定的に稼ぎ出していたということになる。(一番上の図を参照)
変わったのは棒グラフで示されている不動産、建設業、金融・保険業界の生産量増加である。バブル要素満載。
この状態では人々はなかなか不況に気付かない。ケルトの奇跡の中にいたのだから尚更。
景気後退なんて想像できないだろうし、したくもなかったであろう。
製造業で稼いだお金を投資で消費してしまったのだと思う。

同時にユーロの金利が下がった。
この状況では危機を見ない、更なるチャンスだと思うのだ。
こうして投資バブルが始まっていく。
アイルランドの銀行は低金利になったことをいいことに、ドイツやフランスなどの列強国から借金までして不動産や株式、金融商品などに投資していく。
日本のバブル景気の時と同じように価格は吊り上っていく。

国民は手に入れた住宅などを担保にしてクレジットカードによる消費を続けていた。
個人も銀行も借金をして消費や投資をしていたのだ。
要するに経常収支の赤字は銀行の債務なのである。
決定的だったのがアメリカの住宅バブルに端を発したリーマン・ブラザーズの破綻。
もうこれ以上借金を続けることは出来ない。アイルランドのバブルも弾けた。
アイルランドの銀行はGDPの10倍に上る負債を抱えて破綻した。
アイルランド政府は銀行の預金者は救済しなかったが、債務保証を約束した。
民間銀行の借金を政府が肩代わりするというのだ。
プラスマイナス0で推移していた財政収支は即座に赤字となる。それもかなり深刻に。
そもそも国の収入とは何か?
2010年には国際市場での資金調達が出来なくなり、アイルランドは実質的に破綻した。
同年、EUとIMFが緊急融資制度を利用した金融支援を決定。額は最大で10兆円ほど。
アイルランドは国家主権を失い管理下に入ったようなものとなる。
それまで4%程度で推移した失業率は一気に14%に跳ね上がり、今でも改善されていない。
財政再建の目途も立たず、2012年にはEU財政協定批准の国民投票が行われ、緊縮財政を受け入れることで決定した。

ケネディ大使の御父上がケネディ大統領であることは皆さんご存知かと思いますが、ケネディ家のルーツはアイルランドですね。
アイルランド系アメリカ人初の大統領でした。


ふたたび

アイルランドの昨年のGDPは2460億ドル(1ドル100円で25兆円)くらい。ランキングでは世界44位。
アメリカは17兆4200億ドル(1742兆円)、日本は4兆6200億ドル(462兆円)、ドイツ3兆8600億ドル(386兆円)、イギリス2兆9500億ドル(295兆円)、フランス2兆8500億ドル(285兆円)、ロシア1兆8600億ドル(186兆円)。
アメリカに比べたら遥かに小さい。

1990年から2007年まではアイルランドの公的債務は400億ユーロ前後で大きな変化はない。
年々GDPが大きくなったのでGDP比は減少し、1990年代には100%近かったのが2007年には20%強まで減少している。
レートによるが2007年平均レートで2007年の債務を換算すると590億ドル(1ドル100円で5兆9000億円)くらい。
このGDP比の減少(GDPの増加)を良好な経済状態と判断するのは誤り。
銀行の借金や投資によって数字が大きくなっていただけのことで、生産量増加の裏には膨大なリスク資産があった。
そしてそのリスクが現実のものとなってしまった。

ここからは分かりやすく日本円で記します。
GDP25兆円に対して負債も25兆円ならばGDP比は100%となる。
GDP比1267%というのはDGPの12.67倍ということであり、金額にすると316兆7500億円となる。
経済大国から見ればそれほど大きな数字でもなくなる。
これが非常に怖いところでもあり、救いにもなる。
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破綻した民間銀行の借金を背負ったアイルランド政府は一気に316兆円を超える債務を抱えたが、この状況での資金調達は一般的にはかなり難しい。借金に借金を重ねるわけだから。
一般の市民ならば「電話一本でお貸しします」とか「自己破産した方でも金融ブラックの方でも大丈夫!」などと謳っているところに頼ってしまうような状況。(闇金頼るならまずは大手消費者金融に!?)
グラフの債務額とGDP比がそこまで大きくないのは、抱えた借金総額(元は民間銀行の債務)ではなく返金のために政府が新たに借金した額だけをプラスしているからだろう。







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by yumimi61 | 2015-05-09 12:36


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