2016年 12月 07日
規範法則
遺伝子組み換えの実態

DNAのある一部分のみを鑑定に使用するという話を書いてきた。
PCRという装置は自分の望んだ特定のDNA断片(数百から数千塩基対)だけを選択的に増幅させることができるという事も書いた。
では、どうやってDNAを切断するのか?
ミクロの世界のことなので人間が目で確認してハサミで切るわけではない。
制限酵素なるものを用いる。
制限酵素にも様々な種類があるが、オールマイティなものはない。
制限酵素が塩基配列のパターンを認識して、認識部分を切断するわけだから、そのパターンが認識できないと切断は出来ない。
制限酵素と塩基配列には相応しい組み合わせがあるということ。
この制限酵素が1960~1970年代に発見されて遺伝子組み換えなどの研究は飛躍的に進歩してきた。
とはいえ、そうそう画期的な切断酵素はないのである。
切断酵素が認識する塩基配列の範囲は狭い。しかも塩基の数は限られており正直そんなに大きな差があるわけではない。同じパターンが何度も使用されていれば、あっちこっちを切断してしまうことになる。
また神様の認識と人間の認識と酵素に覚えさせた認識が各々違っていて、範囲の切れ目(塩基配列の区切り)を間違えれば大変である。その範囲はただの範囲ではなくて意味があるはずなのだから。

DNAは2本の鎖からできているが、この鎖の方向は逆になっている(逆平行)。
この2本の鎖の間で各々の塩基が結合しているのだが、この結合の組み合わせは、AT(アデニンとチミン)、GC(グアニンとチロシン)以外にはない(相補的塩基対)。
つまり塩基配列も逆向きとなる。

5’・・・・・GAATTC・・・・・・3’
3’・・・・・CTTAAG・・・・・・5’

(5’や3’は末端ということ。数字は向きを表す。)

GAATTCという塩基配列を認識する制限酵素がある。
制限酵素は認識した塩基配列の端を切る(粘着末端)。

5’・・・・・G  AATTC・・・・・・3’
3’・・・・・CTTAA  G・・・・・・5’

切断の仕方(切り口)には2種類ある。その形状により平滑末端と粘着末端と呼ばれる。
(平滑末端の例) 
5’・・・・・GAA TTC・・・・・・3’
3’・・・・・CTT AAG・・・・・・5’


切断する酵素があれば結合する酵素もある。
DNAリガーゼと呼ばれる酵素で、DNAの切れた末端同士をリン酸ジエステル結合でつなぐ酵素である。
生体内では主としてDNA複製とDNA修復に寄与している。
一方、遺伝子工学で組換えDNAを作るために頻繁に利用されている。

同じ塩基配列ならば同一種でなくても組み換え可能と言われていて、これが行われている。

(大腸菌のDNA)
5’・・・・・G  AATTC・・・・・・3’
3’・・・・・CTTAA  G・・・・・・5’

(人間のDNA)
5’・・・・・GAATTC・・・・・・GAATTC・・・・・・3’
3’・・・・・CTTAAG・・・・・・CTTAAG・・・・・・5’
      切 ↓ 断
5’・・・・・G AATTC・・・・・・G AATTC・・・・・・3’
3’・・・・・CTTAA G・・・・・・CTTAA G・・・・・・5’

(大腸菌と人間のDNAの合体)
5’・・・・・GAATTC・・・・・・GAATTC・・・・・・3’
3’・・・・・CTTAAG・・・・・・CTTAAG・・・・・・5’

これを組み換え遺伝子と言っているが、見ての通り、組み換えというより挿入。交換したわけではなく間に差し入れただけ。
しかも同じ塩基配列であることを利用して行うものである。同じ塩基配列ということは種は違えど共通の遺伝情報(タンパク質の作り方)である可能性が高い。(反復の回数が変わる!?)
その種が本来全く持たない遺伝子(塩基配列など)を末端だけ合わせて無理やり挿入しても上手くいかないか、一旦は挿入出来たとしても相同組み換えによって修復されて無くなってしまう可能性が大いに考えられる。
それは種を守る術でもある。
DNAが持っている相同組み換えという機能と、人工的な遺伝子組み換えは同じものではない。
ゲノム編集とは結局のところ、塩基配列の切断と挿入である。
塩基配列が相同組み換え以外の理由にて物理的な変化が起こった場合(置換)には突然変異に繋がる。
それはほとんどの場合良い結果を生まず淘汰される運命にある。またその状態で世代を継承することも極めて難しい。

ちなみにGAATTCという塩基配列を認識する制限酵素は大腸菌から発見された酵素である。
DNAを切断する酵素を自分自身で保有している大腸菌だが自分のDNAを切断したりはしない。
プロテクターがかかっていて自身のDNAは保護されている。これを「制限-修飾系」(メチル化)と言っている。
それならば何故に切断する制限酵素なんか所有しているのかと言えば、大腸菌の防御機能である。
大腸菌内にウイルス(バクテリオファージ)が侵入した場合、バクテリオファージのDNAはメチル化されていないので、侵入してきたバクテリオファージのDNAを制限酵素でもって切断しバラバラに分解して感染を防ぐという仕組み。
人間の免疫機能の抗体のようなもの。


おまかせ

同じ種の生物は基本的に同じ塩基配列(遺伝子)を持つが、異なる配列(遺伝子)を持つ個体が存在することが知られている。同種でありながら形態が違う場合などで、これを多型と言う。
この場合には制限酵素によって切断されたDNA断片の長さも異なる。

STAP細胞論文騒動の時にテレビなどで小保方さんが改ざんした画像が取り上げられていたが、あれは電気泳動の画像である。
既知のDNA断片長(サイズマーカー)と比較していた。
「長さが違うので異なるマウスです。新しいマウスです」という証明をしていたわけだが、小保方さんが切り貼りしたのはDNAではなくて電気泳動画像だったことが発覚したのである。
DNA断片長の長さを調べる方法は、RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism、制限酵素断片長多型)と呼ばれる。

この方法も近年はだいぶ簡単になっている。何故かというと昨日書いたPCRを使うからである。
会見で培養が出来ないと言っているような発言をした小保方さんでもPCRがあれば!?
でも電気泳動の画像は嘘だった。

(旧方法)
1.生きた細胞の採取
2.細胞の培養(数日)
3.比較的高品質なDNAの抽出
4.DNAの切断
5.電気泳動
6.ブロッティング
7.放射性同位元素等でラベルしたプローブのハイブリダイズ
8.X線フィルムへの感光・現像


(新方法)
1.比較的粗雑なDNAの採取
2.PCR(2時間程度)
3.DNAの切断
4.電気泳動
5.紫外線によるDNAの可視化



命より大事な仕事はありません!?

細胞は通常外界では生きていけない。
細胞が生きていく適した環境が得られないし、汚染もされる。また細胞自体の寿命もある。
そんな外界では生きていけない細胞を環境を整えて外界でも維持するのが培養である。
環境条件だけでなく、様々な操作や薬品を必要とする。

人間には植物状態(遷延性意識障害)と脳死という状態がある。
この2つの状態が同じだと誤解されることもあるが、両者は全く違う状態である。

植物状態は脳幹の機能が残っていて、自発呼吸も可能である。意識がなく眠りつづけているような状態だが回復の可能性は残されている。

一方、脳死は脳幹を含め脳全体の機能が失われた状態。脳幹が機能しなくなると回復する可能性はない。二度と元に戻らないということになる。
脳幹は呼吸や循環機能、意識の伝達など、生きていくために必要な働きを司っているので、脳死の場合は人工呼吸器や生命維持装置を付けなければ止まってしまう。
薬剤や人工呼吸器などによってしばらくは心臓を動かし続けることが出来るが、多くの場合は数日以内に停止してしまう。
だから多くの国が脳死(大脳・小脳・脳幹すべての機能が失われた状態)を人間の死と定義しているわけである。(イギリスは脳幹の機能が失われたら脳死)

脳死移植は脳死判定後(心停止前)に臓器を摘出して他者に移植を行うもの。要するに脳死と心停止の間に若干時差があるのでそれを有効に利用する移植である。
腎臓、膵臓、眼球(角膜)は心臓が停止した後でも移植が可能であるが、誰かが自然に死ぬのを待っているのでは間に合わない。一応予定をしている。
まだ心臓が動いている間に臓器摘出目的の投薬やら何やらが行われ、心停止前後に人工呼吸による酸素供給や心マッサージによる血流維持が図られる。
死の瞬間はボーダーである。

培養はいわば脳死状態で人工呼吸器や生命維持装置を付けている状態と言えるのではないだろうか。




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by yumimi61 | 2016-12-07 12:24


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