2017年 02月 09日
インフルエンザと薬
インフルエンザ、後追い自殺…「エビ中 松野さん急死めぐりデマ拡散、法的問題は? Yahoo!ニュース配信―弁護士ドットコム 2/9(木) 18:08配信

人気アイドルグループ「私立恵比寿中学」のメンバー、松野莉奈さん(18)が2月8日に急死したことを受けて、ツイッターなどSNS上では、作り話や真偽不明な情報が拡散された。

あるツイッターの投稿は、東京大学の男子学生が自宅で亡くなっており、「残された遺書の内容から、松野莉奈さんの病死に関連した後追い自殺と見られる」という内容だ。投稿は削除され、投稿者は後に「創作ニュースすら自由に流せない」と投稿している。

また、松野さんの死因はインフルエンザ脳症だとして、「インフルエンザのときに解熱剤を飲むとインフルエンザ脳症になることがあるらしい」という情報もツイッターなどで拡散され、NHKニュースが専門家の否定コメントを流す事態に発展した。

SNSには、真偽不明な情報が投稿されることも多く、デマや作り話を本気にしてしまう人もいる。実際の事件・事故などに関連してデマや作り話を投稿することは法的に問題ないのだろうか。清水陽平弁護士に聞いた。

(以降略)

タイトルを読んだ時点では、急死の原因がインフルエンザであったこと、後追い自殺があったこと、それらがデマだったという話かと思った。
驚いたことに記事を読んでみると少々違った。
若き女性が亡くなったことから離れて、「インフルエンザのときに解熱剤を飲むとインフルエンザ脳症になることがあるらしい」というのがデマだと言っているのだ。
しかも何故かNHK名指し。NHKだけが否定したということだろうか。

「インフルエンザのときに解熱剤を飲むとインフルエンザ脳症になることがあるらしい」という情報を一般の人が個人的にTwitterで呟くことがデマなんだろうか。
そうということならばSNSに限らず社会には数多のデマが氾濫しているけれども。
ともかく「インフルエンザのときに解熱剤を飲むとインフルエンザ脳症になることがあるらしい」をデマだと断言してしまう記事自体がデマということになりかねない。
非常に性質が悪い、オブラートに包んで言えば、読者に誤解を与える記事である。
「なんだデマか、じゃあ大丈夫なんだな」と誤解させることは命を危険にさらす行為となる。

その件を扱ったNHKのニュースサイト。
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アイドル急死 ”解熱剤でインフル脳症”がネットに拡散 NHK NEWS WEB 2月8日20時26分

人気女性アイドルグループの18歳のメンバーが8日亡くなったことに関連して、ソーシャルメディアなどでは、「インフルエンザのときに解熱剤を飲むとインフルエンザ脳症になることがあるらしい」という情報が拡散しましたが、これについて専門家は、「これまで詳しい研究が行われたことはなく科学的な証拠はない」と話しています。

亡くなったのは「私立恵比寿中学」のメンバーの松野莉奈さん(18)で、8日未明に亡くなったと所属事務所が発表しました。ツイッターなどには、松野さんが亡くなった原因は「インフルエンザ脳症」だとして「インフルエンザのときに解熱剤を飲むとインフルエンザ脳症になることがあるらしい」という情報が拡散しました。

インフルエンザ脳症に詳しい岡山ろうさい病院の森島恒雄院長によりますと、インフルエンザの時に解熱剤を飲むとインフルエンザ脳症になりやすいかどうかについては、これまで詳しい研究が行われたことはなく科学的な証拠はないということです。
ただ森島院長らが、過去にインフルエンザ脳症になった患者181人を対象に行った調査では「ジクロフェナクナトリウム」や「メフェナム酸」といった薬を脳症の患者に単剤で使った場合の死亡率は40%と、薬を使わなかった場合の死亡率25%に対し、高い結果になったということで、脳症になっていなくてもインフルエンザになった段階でこれらの解熱鎮痛剤は、使用すべきではないということです。

このためこれらの解熱鎮痛剤は、今では小児科部門でほとんど使われることがなくなっていてこうした悪影響がみられなかった「アセトアミノフェン」とよばれる解熱鎮痛剤が主に使われているということです。
また一般的に知られている「アスピリン」もアメリカで別の病気との関連を示す研究があるため、原則として15歳未満のインフルエンザ患者には使わないということです。


この記事を読んで一般の人がすぐに理解できるだろうか?意味がよく分からないであろう。
そもそも中味なんかよく読まない人も多いかもしれない。

NHKが取材した専門家が語ったとされていること。

①インフルエンザの時に解熱剤を飲むとインフルエンザ脳症になりやすいかどうかについては、これまで詳しい研究が行われたことはなく科学的な証拠はない
(下線部を言い換えると、詳しい研究が行われたことがないので科学的根拠があるとは言えない、ということになる。前にも説明したが科学的根拠とは論文である)

②インフルエンザ脳症の患者に「ジクロフェナクナトリウム」や「メフェナム酸」といった薬を使った場合、使わなかった患者よりも死亡率が高かった。

③インフルエンザ脳症になっていなくても、インフルエンザになった段階でこれらの解熱鎮痛剤は、使用すべきではない。

間違っても「鎮痛剤を使っても何ら心配ない」などとは一言も言っていないことが分かる。


では弁護士ドットコムは何故これをデマだと決め込んだのか。
NHKは何故これを「ネットに拡散」などという思わせぶりな誤解を与えやすいタイトルで配信したのか。
(インフルエンザ脳症に詳しい病院長の話として「根拠はない」を強調するも、デマという言葉を入れていないところがミソ)
NHKは誰の入れ知恵か知らないが、おそらくインフルエンザとインフルエンザ脳症の差を付いてきたのであろう。

インフルエンザに罹患するとインフルエンザ脳症という状態に陥ることがある。
インフルエンザ→インフルエンザ脳症

インフルエンザ脳症とは、インフルエンザウイルス感染に伴う発熱後、急速に神経障害・意識障害を伴う症候。
病型は、急性壊死性脳症、ライ症候群、HSE症候群(hemorrhagic shock and encephalopathy syndrome、出血性ショック脳症症候群)などに分類されている。


・急性壊死性脳症(狭義のインフルエンザ脳症)
5歳以下(特に1〜3歳)に好発し、A型インフルエンザ(A香港型)が原因のことが多い。発熱して平均1.4日後に発症する。嘔吐・下痢・腎機能障害とともに意識障害も出現する。血小板が減少しDIC(播種性血管内凝固症候群)になることもある。
原因は不明であるが、40℃以上の発熱の数時間継続と解熱剤のNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)内服など、何らかの原因で脳の血管内皮細胞が障害されて起こるということがわかっている。
インフルエンザに感染すると、サイトカインの産生が高まりミトコンドリアのエネルギー代謝が低下し、脂肪代謝系のCPT2への依存度が高まるが発熱継続によりCPT2の酵素活性が落ち、CPT2遺伝子多型患者の場合はミトコンドリアが更にエネルギー不足に陥るためにインフルエンザ脳症を起こしやすいことがわかっている。ちなみに、DICを合併した場合をHSE症候群という。


・ライ症候群
6〜12歳に好発し、B型インフルエンザが原因のことが多い。他、水痘・帯状疱疹ウイルスなどでも生じる。発熱して5〜7日後に発症することが多い。嘔吐・意識障害・痙攣を生じる。また、高度の肝機能障害・低血糖・高アンモニア血症も伴うことがある。解熱剤のアスピリンに含まれるサリチル酸がミトコンドリアを障害するという説がある。
実際はインフルエンザウイルスが発症者の脳から検出されたことはなく、メフェナム酸(ポンタール)やジクロフェナク(ボルタレン)といった、強すぎて海外では既に使われていないが日本国内では認可されている解熱剤により発症するという意見も無視することはできない。



私は1月5日にインフルエンザやインフルエンザ脳症やボルタレンについて書いている。
その中にこう書いた。

現在はインフルエンザにボルタレンを使うことは禁忌となっている。
インフルエンザ ボルタレン で検索すれば注意する記事が幾つも出てくるが、当時はまだそういった認識がなかったのである。


厳密に言うと薬の説明書に書かれている禁忌は、インフルエンザ脳炎・脳症の患者であって、インフルエンザの患者ではない。

しかし「禁忌」という言葉は薬の説明書だけに使われるものではない。
禁忌とは、「してはいけないこと」の意。タブーとしての禁忌には道徳的な含みが あるのに対して、他の用例では、技術的、科学的な根拠によって禁じられている。

禁忌
1 忌(い)み嫌って、慣習的に禁止したり避けたりすること。また、そのもの。タブー。「禁忌を破る」
2 人体に悪影響を及ぼす危険がある薬剤の配合や治療法を避けて行わないようにすること。

デジタル大辞泉

インフルエンザに医師が処方することが禁忌でなくても、保健指導の立場から、あるいは経験者の立場から、それが禁忌だと言うことはあるだろう。
また入院などしていて医療従事者が投薬する場合以外は、結局のところ処方された薬を使う使わないは個人の判断に委ねられている。
その個人の判断が吉となることもあれば、凶となることもある。
学者や医師だけで世の中回っているわけではない。

製薬会社ノバルティスファーマの医療関係者向けサイトのQ&Aにも次のようにある。

Q 小児の発熱に対するボルタレン錠、ボルタレンサポの使用は?

A インフルエンザの臨床経過中の脳炎・脳症の患者は禁忌のため、投与しないでください。
また、インフルエンザの発熱に対するボルタレン錠とボルタレンサポの使用は「禁忌」ではありませんが、臨床経過から脳症発症の可能性を予測することは困難とされており、その使用は推奨できません。
小児のウイルス性疾患の患者には投与しないことが原則であり
、やむを得ず投与する場合には、慎重に投与し、投与後の患者の状態を十分に観察してください。



どうしてインフルエンザ脳症が起こるのかよく分かっていない。
確定的なものは一つもないということになるが、解熱剤との関連性は有力視されている。
インフルエンザ脳症の状態にある患者に使えば重篤化してしまう。死亡率が高いとNHKが取材した専門家も言っている。

そもそもインフルエンザとインフルエンザ脳症の境目がよく分からないという大きな問題を抱えている。(ここ大事!)
上記に掲載したノバルティスの回答にはこんな表現があった。
「臨床経過から脳症発症の可能性を予測することは困難とされており」
つまり、インフルエンザと診断された患者が、いつ、どんな時に、どんな人がどんな確立でインフルエンザ脳症になってしまうのか分からないのである。
もちろんインフルエンザ脳症にならないで治る人が圧倒的に多いわけだが、治る人と治らずにインフルエンザ脳症になってしまう人の差が分からない。

病院に行ってインフルエンザと診断され薬をもらったので、ひとまず安心して家に帰った。
自宅で気が付いたらインフルエンザ脳症に陥っていたということもある。
病院で処方された解熱剤を使ってからインフルエンザ脳症に陥った人もいれば、処方された解熱剤を使わないうちにインフルエンザ脳症に陥ってしまう人もいるかもしれない。

乳幼児の場合は聞き取りや訴えにも限界がある。本人からいつどんな時にどういう状態になったのかと訊き出すことは困難。1歳未満の乳児では不可能。
だからどんな兆候があるのかよく分からない。兆候はなく突然起こるのかもしれない。
そばにいた人が観察して異変に気付くしかないが、すでにインフルエンザなり風邪で高熱を出してぐったりしたりぐずっている赤ちゃんや子供の更なる異変を早期に発見するのは難しい。
それは要するにインフルエンザからインフルエンザ脳症に移行する境界線を明確に引くことは出来ないということである。
例えば解熱鎮痛剤を使うことが問題なのはインフルエンザ脳症だけでインフルエンザは問題ないとしても、インフルエンザとインフルエンザ脳症の境目が分からない以上インフルエンザに対しても使うべきではない。(もう少し平たく言えば、インフルエンザでも使用は推奨できないということになる)


インフルエンザ脳症という名から分かる通り、症候(症状と診察所見)を指している。
疾患名とはニュアンスが違う。
症候は診断の手がかりとなるもの。
でも通常はすでにインフルエンザという診断がついているわけである。
それなのに通常インフルエンザでは見られない症状を呈する患者がいた。
それはどうも日本特有で、また日本でも昔からあるわけでもなくわりと最近のこと。(だから余計に薬が疑われる)
とにかく先にインフルエンザという診断が付いている。その後に脳に関する症候(症状)を呈する人がいるが、それによって何か別の疾患が見つかるわけではない。
だから症候がそのまま疾患名として用いられるようになったのだが、インフルエンザであったことには変わりない。
(ちなみにインフルエンザ脳炎と呼ばれることもあるが、インフルエンザ脳炎はインフルエンザ脳症よりは軽い状態とされる)




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by yumimi61 | 2017-02-09 22:02


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