2007年 08月 30日
壁書
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レプリカの美しさに囲まれて

人はいつしか時間の記憶や変化を認めなくなるのだろうか

人そのものが完成と崩壊のプロセスであるにもかかわらず








猫が壁で爪をとぐ。
最初はそうでもなかったのだが、最近では与えた爪とぎには爪とぎとしての魅力をあまり感じないらしく、
ダメと私に言われるところですぐにとぐ。
「ダメダメダメダメ」とダメを連発して、やや疲れたところで嘆いてみた。
「あぁぁぁ壁がぁ・・・」
落ち込む私に追い討ちをかけるかのごとく次男が呟く。
「オレはいいと思うけどね。芸術じゃん」
そういえば彼がもっと幼かったときにこの白い壁にマジックやらボールペンやらで絵をかいたっけ。
あれも芸術だったっていうわけか。

違う違う、そんなことに感心してる場合じゃないんだから。
大人の都合なんて何処吹く風。だから子供って嫌になっちゃう。
真っ直ぐな視線で見つめ返す猫を相手に私は「ここで爪をといだらダメなんだからね」と説く。


するとまた
「綺麗事ばっかり言ってるのってなんかピンとこないんだよね~」
悪魔のような一言が聞こえてきたので視線をあげると、私の小言なんかにはさっさと見切りをつけた息子二人が
テーブルの上で漫画を書いている。
それは私に投げかけられた言葉ではなくて、漫画についての語りだったのだ。
ここはひとつ逆襲してやろうかと口を挟んでみた。
「ところで綺麗事っていう意味わかってるの?」
ピンとこない、と言った次男は時々言葉の意味を間違えて使っていることがあって
少し前まで長男からさえ「世間知らず」と言われていたくらいなのだ。
その語録集を作っておけばかなり面白いものができたはずと私も本気で後悔しているほど
彼は間違いを量産したのだ。

「綺麗事?わかってるよぉ」
「じゃあどういうこと?」
「漫画のヒーローが‘正義は勝つ’みたいなことばっかり言ってること」

へぇわかってたんだ・・逆襲に失敗した私は意気消沈。
そんな私を尻目に彼らの談義は続いている。

「ほんとほんと、そういうのばっかりだと何かしらけちゃうんだよね」
「あとさー、言葉が多い漫画もダメだよね。オレもさぁ漫画描く時、言葉を書きすぎちゃうんだけどね」
自らの漫画の反省を生かして(?)、ならば小説に、と思ったのかどうかは知らないけれど、
次の朝次男は算数ノートに小説を書いていた。

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---------------------------(原文のまま)-------------------------------------------------------------------------

第一章 ぼうけんのはじまり

「おきて・・・・・・世界をすくって・・・・・・。」
「えっ」
としぶしぶおきるショウ。外へ出てみると
「な、なんだ!?」
朝のはずの町がなんと真っ暗なのだ。ショウは10才で小学4年だが、こんなことは一度も見たことなかった。
「たったいへんだ。早くみんなに知らせないと。」
ショウはいそいだ。
しかし、みんながいつもいる所には、パンのくいかけが一まい、本が一さつ、えんぴつ、ケシゴムがともに二本しかのこっていない。そして本には、消えそうな文字でこう書かれていたのだ。
エラバレシモノヨロクニンノシュゴシャヲトメロ。デナケレバセカイハ・・・・・・・・・・・・・
そっからさきは、ちぎれていてよめなかった。でもけんとうはついている。この世界がほろぼされてしまいそうなことだけはわかるような気がする。
もう一度外へでてみると、いつもどおりの朝がきていたと思った・・・・。でもいつもと少しちがうところが三つあるのだ。一つは、ぼくがうまれたときからある山がないのだ。二つめは町のいり口のさくがしまっている。三つめは朝になるといつもなるかねがなっていないのだ。
「おい。どうした。」
ぼくの家のしんせきのジョンがはなしかけてきた。ぼくはきょうあったできごとをすべて、こえががかれるまでしゃべった。でもジョンは答えなかった。そして、しずかにいったのだった。
「じゃあなショ・・・・・・・・・・・・えらばれしものよ。」
ぼくは本にかいてあったエラバレシモノヨロクニンノシュゴシャヲトメロをおもいだした。そういえば、ちっちゃいころにおかあさんによんでもらった本のことを一ぶぶんだけおもいだした。
六つのしんかんのなかの、魔力をとれば世界はすくわれる、そうゆうはなしだった。
しばらくショウはボーットしていた。すると光がショウのからだをさした。そのしゅんかんぼくのうんめいはかわった。まぶしくて目をつぶったら朝見た暗闇の世界に一しゅんでかわった。ぼくのやるべきことはオトナのシュゴシャを止めることだ。そんなような気がした。その時うしろでいつもきくこえがした。
「ショウ・・ショウ」
うしろをふりむくとジョンがいた。二本のうでににぎりしめたけんをわたしながら言った。
「わたしもつれてってもらおうか。いくのだろう。」
道ならジョンが地図をもっている。そうしてぼくは町をでた。

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現在三章まで書かれている未完成のこの話を読んだとき、
実は私はこの中に書かれているシュゴシャ(守護者)はシュボウシャ(首謀者)のことを
勘違いしたまま書いたのだろうと思い、彼にシュゴシャの意味を聞いてみたのだ。
守る人のことだよ、彼はあっさりと言った。

守護者を止めろ・・ 闇・・ 魔力によって救われる世界・・

ひょっとすると・・・
子供は大人が思う以上に大人の嘘を見抜いているのかもしれない。
世の中の欺瞞に気づいているのかもしれない。

命を大切にしなさい。と言いながら死にそうな猫を見て見ぬふりする大人のずるさなんて、
嘘なんかついちゃダメ。と言いながら嘘をつく私のことなんて、
自分のことは自分で決めなさい。と言いながら「じゃあ学校に行かない」と言われて動揺する私のことなんて、
とっくに見抜いているのだろう。



猫の爪とぎを座布団にして、彼は今日も漫画を読んでいた。
猫の爪とぎを枕に、猫は今日も昼寝をしていた。

私は今日も壁を見て溜息をついている。



弱さや醜さ、無常観が創るものがあるのなら・・
それを認めさえすればまだこの世界は希望に満ち溢れている・・ということなのか・・


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by yumimi61 | 2007-08-30 17:26


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