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日本国憲法の秘密-16-

憲法9条の変遷の続きです。上部は再掲となります。

1945年8月15日 玉音放送、終戦。
1945年8月30日、マッカーサー総司令官は厚木飛行場に降り立ち、戦争犯罪人容疑者リスト作成を命じた。
1945年9月11日、GHQより容疑者に出頭命令。
1945年10月4日 GHQのマッカーサー総司令官は、自由を謳い、憲法改正を示唆した。
   この10月以降、内閣にて、さらには民間においても、憲法改正案が作られるようになる。

1946年2月3日、マッカーサー総司令官が三原則*を提示。
1946年2月13日、マッカーサーの部下が三原則をベースに作成した草案(GHQ原案)**を日本政府に提示。
   これ以降、「マッカーサー草案」に基づく「日本政府改正草案」***を作成する。
1946年3月6日、「日本政府改正草案」****をマッカーサーが了承する。
   この後も何度か修正が加えられる。*****
1946年10月7日、改正案が帝国議会で可決される。
1946年10月12日、政府が枢密院に諮問。
1946年10月29日、日本国憲法の公布。

1947年5月3日、日本国憲法施行。
   以後今日まで一度も改正されたことがない。

1948年12月23日、死刑判決の下ったA級戦犯の死刑が執行された。


***日本政府改正草案(3月5日案)
第二章 戦争ノ抛棄
第九条 国家ノ主権ニ於テ行フ戦争及武力ノ威嚇又ハ行使ヲ他国トノ間ノ争議ノ解決ノ具トスルコトハ永久ニ之ヲ抛棄ス陸海空軍其ノ他ノ戦力ノ保持ハ之ヲ許サス。国ノ交戦権ハ之ヲ認メス
<口語訳>
第2章 戦争の放棄
第9条 国家の主権において行う戦争及び武力の威嚇または行使を他国との間の争議の解決の具(道具・手段)とすることは永久にこれを放棄する。陸海空軍その他の戦力の保持はこれを許さず。国の交戦権はこれを認めず。

****日本政府改正草案(3月6日)
1946年3月6日に政府案として発表された「憲法改正草案要綱」。
第二 戦争ノ抛棄
第九 国ノ主権ノ発動トシテ行フ戦争及武力ニ依ル威嚇又ハ武力ノ行使ヲ他国トノ間ノ紛争ノ解決ノ具トスルコトハ永久ニ之ヲ抛棄スルコト陸海空軍其ノ他ノ戦力ノ保持ハ之ヲ許サズ国ノ交戦権ハ之ヲ認メザルコト
<口語訳>
第2章 戦争の放棄
第9条 国の主権の発動として行う戦争及び武力による威嚇または武力の行使を他国との間の紛争の解決の具(道具・手段)とすることは永久にこれを放棄する。陸海空軍その他の戦力の保持はこれを許さず、国の交戦権はこれを認めないこと。

*****天皇の諮問機関(枢密院)に諮詢された「憲法改正草案」
1946年4月17日に政府案として発表され枢密院に諮詢した「憲法改正草案」。
憲法改正草案(政府原案)
第二章 戦争の抛棄
第九条 国の主権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、他国との間の紛争の解決の手段としては、永久にこれを抛棄する。
第二項 陸海空軍その他の戦力の保持は、許されない。国の交戦権は、認められない。


*****天皇の諮問機関(枢密院)に諮詢された「憲法改正草案」
4月17日案を若干修正して5月25日に改めて枢密院に諮詢した案。
憲法改正草案(政府修正案)
第二章 戦争の抛棄
第九条 国の主権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、他国との間の紛争の解決の手段としては、永久にこれを抛棄する。
第二項 陸海空軍その他の戦力は、これを保持してはならない。国の交戦権は、これを認めない。

現行9条にも入っている(問題の!)「これを」という文言が挿入された。
そしてこの案文が枢密院で可決され、1946年6月25日に衆議院に上程された。


衆議院帝国憲法改正案委員小委員会

1946年7月25日から8月20日にかけて13回にわたって開催された。
委員長は芦田均。
芦田は1947年に日本自由党を離党して民主党を創設した人物で、1948年に7ヶ月程総理大臣も務めたが、昭和電工汚職事件で内閣総辞職した。政界・財界・GHQの絡む汚職事件だった。

上記案文では積極性や自主性に欠けるという意見が出たため芦田試案が提示された。
*****芦田試案(7月29日)
第二章 戦争の抛棄
第九条 日本国民は、正義と秩序とを基調とする国際平和を誠実に希求し、陸海空軍その他の戦力を保持せず。国の交戦権を否認することを声明す。
第二項 前掲の目的を達するため、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを抛棄する。

*****芦田試案修正案(7月30日)
第二章 戦争の放棄
第九条 日本国民は、正義と秩序とを基調とする国際平和を誠実に希求し、陸海空軍その他の戦力は、これを保持せず。国の交戦権は、これを否認することを宣言する
第二項 前掲の目的を達する為め、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する

*****芦田試案修正案(8月20日)
第二章 戦争の放棄
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
第二項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

比較

【枢密院で可決した案】
1項 国の主権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、他国との間の紛争の解決の手段としては、永久にこれを抛棄する。
2項  陸海空軍その他の戦力は、これを保持してはならない。国の交戦権は、これを認めない。

【芦田試案当初】
1項 日本国民は、正義と秩序とを基調とする国際平和を誠実に希求し、陸海空軍その他の戦力を保持せず。国の交戦権を否認することを声明す。
2項 前掲の目的を達するため、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを抛棄する。

【芦田案最終】
1項 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。


芦田試案では、2項の頭に「前項の目的を達するため」という文言が付け加えらた。
目的というのは重要である。
しかしその目的が委員会の始めと終わりでは変わってしまっているのだ。
そして結局枢密院で可決した案に極めて近いものになった。

【委員会最初】
「陸海空軍その他の戦力を保持せず。国の交戦権を否認する」という目的を達成するため
  ↓
「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを抛棄する」。

【委員会終盤】
「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」という目的を達成するために
  ↓
「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」


最初の芦田試案は、「とにかくもう日本の軍隊や戦力は持たないようにしよう!」というのが目的だった。
軍隊や戦力が必要な時はどういう時かと言えば、戦争や武力行使の時だから、「日本の軍隊を保持編成しなくて済むように戦争や武力行使は永久にしないでおこう!」という条文なのである。
日本の軍隊に随分懲りてしまった観がある。
「戦争をしない」などといった目的のほうが違和感なく一般的だろうと思う。
やや違和感の残る目的を選び、わざわざ1項と2項を置き換えたことを思えば、熟考の上の変更だったに違いない。
日本の軍隊を脅威に思った外国人がいたか、日本の軍隊の恐ろしさを知っていた日本人がいたか、どちらかではなかろうか。


法律は芸術ではない

軍隊について書かれている部分を抽出してみると、大きな違いに気付く。
先頭に◎を付けた文章は、軍隊や戦力、交戦権を直接否定しており明確簡潔で非常に分かりやすい。
ところがこの文中に「これを」が挿入された。
そうすると「これを」が何を指しているのかが明確でなくなる。
読む人によって見解が変わるということが生じる。
よくアーティストたちが言うじゃないですか。「どんなふうに解釈していただいても結構です。人それぞれですから」みたいなこと。
でもそれを書いたり作ったのは個人であり、著作権を主張する人達である。
そうであるならばそこには明確な意図や答えがあるべき。
「どんなふうな解釈でもよい」というのは誤解を与える、「答えはあるけれど言いません」と言うべき。
法律であるならば尚更。
どんなふうにも解釈できるのでは困る。
法律は芸術ではない。
なるべく誤解を与えない明確で簡潔な文章を用いる必要がある。
幾つもの解釈が出来る文章は避けなければならない。
にもかかわらず、明確だったものを曖昧にした。それが憲法9条である。


◎陸軍、海軍、空軍、またはその他の戦力が承認されることはなく、国家に交戦権が与えられることもない。(GHQ原案)

・陸海空軍その他の戦力の保持及び交戦権はこれを認めず。(日本政府改正案3月2日)
・陸海空軍その他の戦力の保持はこれを許さず。国の交戦権はこれを認めず。(日本政府改正案3月5日)
・陸海空軍その他の戦力の保持はこれを許さず、国の交戦権はこれを認めないこと。(日本政府改正案3月6日)

◎陸海空軍その他の戦力の保持は、許されない。国の交戦権は、認められない。(憲法改正草案、枢密院に諮問4月17日)
・陸海空軍その他の戦力は、これを保持してはならない。国の交戦権は、これを認めない。(憲法改正草案、枢密院に諮問5月25日)

◎陸海空軍その他の戦力を保持せず。国の交戦権を否認することを声明す。(芦田試案7月29日)
・陸海空軍その他の戦力は、これを保持せず。国の交戦権は、これを否認することを宣言する。(芦田試案改正案7月30日)
・陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。(芦田試案修正案8月20日)

・陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。(日本国憲法)


芦田の意図

1946年(昭和21年)8月24日、衆議院本会議での委員長報告において芦田均はいわゆる芦田修正について「戦争抛棄、 軍備撤退ヲ決意スルニ至ツタ動機ガ、 専ラ人類ノ和協、 世界平和ノ念願ニ出発スル趣旨ヲ明カニセントシタ」ものであると述べている。
その後、この修正について芦田は、自衛戦力を放棄しないための修正であり、このことは小委員会の会議録にも書かれていると発言している。
ところが、のちに公開された小委員会の速記録や『芦田均日記』からは修正の意図がこのような点にあったかは必ずしも実証的には確認できないといわれる。
ただし、国際法の専門家である芦田が自衛のための戦力保持の可能性を生じることとなった点について気付いていなかったとは思われないとみる見方もある。
このようなこともあって芦田の真意は未だに謎とされている。


「戦争抛棄、 軍備撤退ヲ決意スルニ至ツタ動機ガ、 専ラ人類ノ和協、 世界平和ノ念願ニ出発スル趣旨ヲ明カニセントシタ」
<口語訳>
戦争放棄、軍事撤退を決意するに至った動機が、専ら人類の和協、世界平和の念願に出発する趣旨を明らかにせんとした。
<意訳>
戦争放棄や軍事撤退を決意するに至った動機は、ただただ人類の和協や世界平和を願うからである。このことを明らかにしようとした。


「これを」を入れず、分かりやすい文章を作ったのは芦田だけではない。
芦田試案が他と違うのは受動態ではなく能動態になったこと。
声明という言葉を使ったことにもその決意が窺える。
「日本は自ら放棄すべき」と言ったマッカーサー原則にも沿う文章である。
ただここで問題となってくるのが自衛である。





by yumimi61 | 2015-07-29 21:22