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やがてそこに。


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日本国憲法の秘密-47-

ある晴れた日に、ある晴れた日のコインランドリーに、遠慮がちに入ってきたのが彼女とあいつだった。
読んでいた週刊マンガから出入り口の床付近に視線を滑らすと四本の脚が見えたので二人連れであろうと思いやや安心して僕は顔を上げた。
こういう場での二人連れにとって僕は空気のような存在である。
透明カプセルに包まれて二人の世界を形成し、カプセルの外は眼中にないことを僕は知っている。
しかしその時は違った。
彼女は僕を見つけるなり、「あっ先輩」と驚いたような顔で小さく呟いた。
季節からも時間からも置き去りにされたような場所に急に現実が降ってきたようで驚いたのは僕のほうだった。
これまでにこのコインランドリーで彼女と出くわしたことは一度もなかったし、そもそも二人は洗濯物らしき荷物を何も所持していない。
僕がここへ来た時に回っている洗濯機なり乾燥機があったかどうか、その記憶ももう定かではなく、それを確かめる余裕もなかった。
「どうしたの?」
コインランドリーに入ってきた人にどうしたもこうしたもないことは百も承知であったが思わず口を衝いて出た。
彼女は「避難」と答えて微かに笑ったように見えた。
「避難・・ 教会ならもう少し先だよ」と僕は言った。
僕には避難という言葉の意味するところが分からなかったが、彼女は、今度はしっかりと微笑んだ。
季節からも時間からも置き去りにされたような場所で、僕は洗いざらしのような洗い立てのような二人に出会ったんだ。


出入り口付近で突っ立っている二人に「座ったら」と僕はこの店の主でもあるかのごとく椅子を勧めた。
病室のベッドサイドで見かけるのと同じタイプの丸椅子が五つほどあった。
「じゃあ私何か食べ物買ってきます。ちょうどお昼だから」
コインランドリーで椅子を勧めた僕が僕なら、「じゃあ食べ物」という彼女も彼女だと思う。
この招かざる状況を誰に何と説明したらよいのかと思いあぐねたが、そうする必要もないことに気付いて愕然とする。
状況や状態や行動を言語化数字化する必要のない僕達は、それだけ健康且つ自由であるということなのだ。
ということはつまり、出会いとは少なからず病的で制約を予感させるものである、ということでもある。

「学生?」
彼女に置き去りにされて項垂れる若者に尋ねてみた。
「小さな大学の経済学部に行ってました。もう辞めましたけど」
意外にもはっきりとした返事が返ってきた。
しかし「小さな大学の経済学部」は想像だにしなかった。
僕はその「小さな大学の経済学部」に思いを馳せていた。
「ジョン・スチュアート・ミルって知ってますか?自由論を書いた人なんですけど」
「いや知らない」


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by yumimi61 | 2015-09-05 18:29