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日本国憲法の秘密-49-

電車は国際線ターミナル駅を過ぎて国内線ターミナル駅に到着した。

ポルトガルの首都リスボンから西に30キロほど行くとロカ岬に辿り着く。
ユーラシア大陸の最西端に位置する最果ての地である。
そこにはポルトガルの詩人ルイス・デ・カモンイスが詠んだ詩の一節「ここに地終わり、海始まる」と刻まれた十字の石碑が建っている。
何とはなしにそのことを思い出していた。
「ここに地終わり、空始まる」
ここにいる人の多くは到着した場所が出発の場所なのだろうと思った。
終わりは始まりと言うけれど、それを体現しうる場所なのだ。

だけど私達には、戻る場所はあっても、向かう場所がない。終着駅は始発駅。
電車を降りると私達を待ち受けていたのは分かれ道だった。
本当はとっくにしていなければならない選択を私達は今ここでしなければならない。
右か左か、第一か第二か、JALかANAか。
もしもこれが運命の分かれ道、人生の岐路だったらどうしよう。
啓発本にでも書かれていそうな「人生に無駄なことは一つもない」という言葉を今は全く信じられる気がしなかった。
だからと言って、選択を間違えないという自信もなかった。
感情を抜きにすれば取るに足らない選択なのだろうと思ったが、感情を抜きに生きていくことが出来るんだろうか。
喉が詰まっていく感じがした。

毎日同じ路線で通勤や通学をする人々、毎日同じ道を行ったり来たりする輸送車両や通勤車両、毎日同じコースを走るジョガー、道や線路には毎日そこを決まって利用する人がいる。
そうした人や車両の流れが、生きるとは千万無量の反復であり、生活は無量無辺の繰り返しであるということを知らせている。
それを考えれば空港線は最初から少し特殊な路線なのだから私が迷うのは仕方ないことなのだと自分に言い聞かせたみたりした。
それなのに彼は初めからそう決まっていたように、あるいは赤い色に吸い寄せられるように、第一ターミナルの方向へ歩いて行く。
「ねえこっち?」
「どうして?あっちがいい?」
「ううん、別にそういうわけじゃないけど。ただ・・」
そう言って私が口を噤むと、彼はにっこり微笑んで、
「時間は戻らないから」と言った。

彼の言うとおり私達はみな反復することのない時間軸の上を生きている。
心臓が規則的に強く速く鼓動するのを感じた。
エレベーターで一気に展望デッキに上がるという方法もあったけれど、私達はターミナル中心部に位置するマーケットプレイスと呼ばれるショッピングモールのエスカレーターを乗り継いでいくことを選択した。
マーケットプレイスの中央部分は大きな吹き抜けになっているが、吹き抜けという大きな空間を作っているのが大理石張りの重厚な柱なのだ。
古代ギリシャやローマの建築物の柱によくある表面に縦の溝が掘られた円柱である。
吹き抜け空間の底に立って上を見上げると、その円柱が上と下の階を繋ぐエスカレーターの終わりと始まりのようにも見える。
溝に点された明かりが作る陰影が歴史の象徴である王冠を強烈に浮かび上がらせていた、と言いたいところだけれど、本当はちょっとぐらぐらゲームに似ていると思っていた。
「あの柱に化石があるんだって」
「化石?」
「うんそう、大理石の中に化石があるらしいの」
「よしじゃあ化石を見つけてから上に行こう」
私達は上の階に上がるごとにフロアを一周して柱の化石を探した。
アンモナイトやベレムナイト、他にも名前は分からない化石らしきものを沢山見つけた。
いつかのワーゲンのように化石を沢山見つけたら幸せになれるという決まりがあったらいいけれど、そんな話は聞いたことないし、正直私には分からない。
幸せになれることで有名な四つ葉のクローバーを野原で見つけ、ある時はお店で見つけた四つ葉のクローバが化石みたいになっているキーホルダーを買ってもらったりもしたけれど、その後の毎日には幸せなことも不幸せなこともあった気がする。
そもそも幸せになれるといった謳い文句は御呪いのようなもので誰も本気で信じてなどいないのかもしれない。
「幸せになれる」って今が不幸みたいに決めつけた前提もおかしいって言えばおかしい。
私は彼と沢山の化石を見つけていた時間を幸せだと思った。

5階から6階のフロアに上がるとまた分かれ道にぶつかった。
展望デッキは2層になっていて、6階フロアから通じる1層部分は右と左に分かれていた。
「また分かれ道だね。T字路」
「Y字路じゃない」と彼が笑った。
「こっちだよ」
そう言う彼の後を着いて行くと、大きく視界が開けて紫陽花色の夕空が広がっていた。
ワイヤーフェンスに張り付く人がちらほらと見えたけれど、平日だったせいかフェンスを覆い尽くすほどではなかった。
「向こうに見えるのが国際線ターミナル。電車でやってきた方角。で、その右側に見える山、何か分かる?」
「もしかして富士山?」
「あたり」
「わぁ富士山見えるんだね。待って、ということは、こちら側は西側?」
「うんそう」
あの空がやがて朱から赤に移り変わっていくだろうことを想像するだけで泣きそうで、何もいらないし全部ほしいと思った。

「もっと上に行くよ」
「え?もっと上って」
「いいから」
彼が連れて行ってくれたのが展望デッキ2層目の入り口だった。
いつかどこかで見たことがあるハードルみたいな形の入り口で、ハードルなら横板にあたる部分にこう書かれていた。
TOP OF HANEDA
GULLIVER'S DECK

ガリバーズデッキ・・・ガリバー・・・。
私は子供の頃、ガリバーと出会って一緒に写真を撮ったことがある。
従姉のお姉ちゃんとその友達と私の三人とガリバーで。
場所は大きな観音様が見える所だったと思う。
私はたぶん赤いワンピースを着ていた。
あのガリバーが着ぐるみみたいなもので、例えばもしも中に人が入っていたとしても、人の大きさではなかった。
どうしてあんなに大きかったのか今でもよく分からない。

ガリバーズデッキへと上がる階段の前で彼が手を差し出す。彼の手をぎゅっと握る。
あたたかくて生きていることが分かった。
「ねえ時が止まったらいいなぁと思ったことある?」と彼に訊いた。
「うーん、ないかな。ある?」
「うん、今」と言って私はへらへらと笑った。
彼の指が私の指と指の間に滑り込んできて時が止まるまえに心臓が止まりそうだった。
優しさが罪だとしても繋ぎとめたいものがある。
指の間に水かきが出来て、その後背中に羽根が生えたら、虚空へと羽ばたく。

一層よりも広がった空に離陸したばかりの飛行機が上昇を続けていた。
「今日ここへ来た時に東京国際空港って書いてあったの」
「東京国際空港だからね」
「そう、ずっと前から国際空港だったんだよね。国際線ターミナルが出来る前から。そのことをすっかり忘れていたと思って」
「普段羽田空港って言ってるから?それとも成田空港があるから?」
「たぶん両方。私ね勝手に成田空港もずっと昔からあるように思い込んでた。だけど成田はそんなに古くないんだって今日思った」
「いつ出来たんだっけ?」
「1980年頃だったと思う。ね、意外に新しいでしょ?」
「1980年かぁ」
「それまでは国際線も全部羽田空港だった」
「うん、そういうことだね」

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先日(8月31日)、右膝に痣(あざ)が出来たことを書いた。
実は私、前にも脚に出来た痣のことを書いたことがある。コチラ
藤本美貴さんの美脚に痣が出来たのと同じ頃、私も痣が出来ていたという話を、後になってから書いたもの。
痣という共通点の他に、夢のことも少し気になっていた。
「藤本」という名前の人から電話をもらう夢を見たことがあったから。2007年5月15日に見た夢だった。
私は夢の中で寮みたいなところにいた。この寮の話はここに書いた
ちなみに私は寮生活をしたことがない。

8月31日に痣のことを書いて数日後、おそらく9月4日だったと思う。
車を運転していたら、すぐ前にトラックがいて、トラック後部に大きく「藤本組」と書いてあった。
そこに一緒に書いてあったのか、それともナンバープレートで確認したのかは忘れたけれど、「足立」とあった。



by yumimi61 | 2015-09-06 17:32