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やがてそこに。


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入郷而従郷╱When in Rome, do as the Romans do

日の神の誕生

日本書紀の本文には「熊野の有馬村(三重県熊野市有馬の花窟神社)」は出てこないが、第5段の本文には重要な記述がある。
太陽を神格化したと思われる日の神の誕生である。
なぜ重要なのかと言うと、近代日本において、 皇室の皇祖神とされており、伊勢神宮に祀られており、日本国民の氏神だとされているからである。
国旗「日の丸」にもその太陽(日)が描かれている。
しかしそんな重要な神であるわりには、明治天皇より以前の天皇が伊勢神宮を参拝したという記録は残っていない。

皇祖神(こうそしん)とは、皇室の祖とされる神。神武天皇の五世の祖(高祖父の父)とされる(伊邪那岐命 - 天照大御神 - 天之忍穂耳命 - 邇邇芸命 - 火遠理命 - 鵜草葺不合命 - 神武天皇、と連なるとされる)。現在では天照大神を指し、記紀によれば太陽を神格化した神であり、天岩戸の神隠れで有名。皇大神宮(伊勢神宮内宮)をはじめとする神明神社に祀られている。

モラロジー研究所教授の所功は「天照大神を指し、特別視すべき」としているが、政治評論家の竹田恒泰は「天照大神は皇祖神の一柱であり、神武天皇の五世の祖すべてを指す」という見解を述べている。一方で歴史学者の岡正雄や古代文学・神話学者の松前健らは本来の皇祖神は高御産巣日神(日本書紀では高皇産霊神と記す)であり、天照大神は後に祀り上げられたとしている。


昨日書いた日本書紀の第5段本文から該当箇所を抜き出した。

既而伊弉諾尊伊弉冉尊共議曰 吾已生大八洲国及山川草木 何不生天下之主者歟 於是 共生日神 號大日孁貴 大日孁貴此云於保比屢咩能武智 孁音力丁反

ほどなく伊弉諾尊と伊弉冉尊が共議したところによれば、「我々は大八洲国と山や川や草木を生んだが、なにゆえに天下の主を生まないのだろうか」、そこで共に日の神を生んだ。号は大日孁貴。大日孁貴は於保比屢咩能武智と言う。孁の音は力と丁の反

一書云天照大神 一書云天照大日孁尊

ある書では天照大神と言い、ある書では天照大日孁尊と言う。

此子光華明彩 照徹於六合之內 故二神喜曰 吾息雖多 未有若此靈異之兒 不宜久留此国 自當早送于天 而授以天上之事 是時 天地相去未遠 故以天柱舉於天上也

この子は華やかに光り輝く姿で、天下の内にいて全てを照らした。
二神は喜んで、「子を沢山作ったけれども、これほど霊力の強い子はいなかった。この国に長く留めるのは好ましくない」と言い、早速天に送り出し、天上の事を授けることにした。
この時はまだ天と地が遠く離れておらず近かったので、天の柱を以って天上に上げた。



日の神の特別感

他の神の誕生の記述と違う点が見られる。
まず「共に」生んだことが強調されている。
それから「号」を述べて、その後に本当の名前らしきものを述べている。

号というのは、文人や画家などが本名とは別に使用する名前(雅号)のこと。
中国の文人が作品を発表する際に使用したことに始まったという。
現代では一般的に筆名やペンネームと言うが、俳句の世界では今でも俳号と言う。
夏目漱石も森鴎外も太宰治も三島由紀夫も与謝蕪村も島崎藤村も樋口一葉も石川啄木も与謝野晶子も種田山頭火も尾崎放哉も本名ではない。
本名に号を付け足していたり、完全に筆名であったり。
漱石や鴎外など下半分で呼ばれることが多い人はそれが号であるからである(上半分は本名)。藤村も一葉もこのタイプ。
太宰治や三島由紀夫などは完全なる筆名なせいか、太宰とか三島とか名字で呼ばれる。
芥川龍之介は本名で、澄江堂主人という号や我鬼という俳号を持っていたらしいが、号で作品を発表しなかったのか全然有名じゃない。
川端康成は本名らしい。
大正時代以降は号が消えていき本名が増えた。

称号ということで言えば、「王」「女王」「王妃」「天皇」「皇后」「皇太子」「皇太子妃」「親王」「教皇」「法王」「聖人」「皇帝」「男爵」「博士」「修士」「学士」「名誉総裁」「名誉市民」などなど、これらはみな栄誉称号と呼ばれるものである。

日の神の号は「大日孁貴」。一般的にはこれを「おおひるめのむち」と読ませている。
本来は音読みさせるべきものであり、ダイニチレイキ、ダイジツレイキ、ダイジツリョウキ、ダイニチリョウキなどといった感じの読みとなる。

解釈の誤り

號大日孁貴 大日孁貴此云於保比屢咩能武智 
号は大日孁貴。大日孁貴は於保比屢咩能武智と言う

日の神の号の「大日孁貴」を一般的には「おおひるめのむち」と読んでいるが、それは「於保比屢咩能武智」を音読みしたと思われる名となっている。
つまり、「大日孁貴此云於保比屢咩能武智(大日孁貴は於保比屢咩能武智と言う)」の部分を読み方の説明と解釈したのだ。
しかし号は本名でないので、単に号に続いて本名を紹介しただけかもしれない。

そうならば本名は「於保比屢咩能武智」。 
これを一般的には「おおひるめのむち」と読ませているが、正確を期すればこれも微妙に違う。
「保」を「お」と読むのは訓読みであり、音読みなばら「ホ」「ホウ」である。
「オホ」で「オオ」と聞こえるというならば分からなくはない。
それから「咩」も「め」とは読まない。
「咩」という漢字が羊の鳴き声を表しているので「メーメー」から「メ」にしたのかもしれないけれど、中国での鳴き声は「ミィエーミィエー(mie)」みたいな感じ。
英語に至っては「baa」。「バアー」?「バァーバァー」?

「咩」の音読みとしては「ビ」か「ミ(ミエ)」である。

オホヒルビノムチ ・・・(お~昼日の無恥!?)
オホヒルミノムチ ・・・(お~怯みの鞭!?)
ウホウヒルビノブチ ・・・(うほ~昼日の斑!?)
ヨホウヒルビノウブチ ・・・(予報、ひるおびの小渕!?)


「孁」の発音(読み方)に触れる

特異的なことがもう一つある。
「孁音力丁反」(孁の音は力と丁の反)の部分である。
日の神の号の「大日孁貴」のうち「孁」の漢字の発音(音読みの仕方)を本文中で指南している。

「□〇反」は、中国でも古い韻書・字書・音義など(今で言えば辞書みたいなもの)において伝統的に使われてきた発音表記法である。□〇の所には違う漢字がそれぞれ入る。
どのように発音すべきかを記すために、全く別の漢字2つをもって、それを表した。
中国では唐代(618-907年)以降は「□〇切」と表記したので、現代ではこの発音表記法を反切(はんせつ)と呼ぶ。

□〇反と書かれていた場合、□を反切上字(父字)と言い、〇を反切下字(母字)と言う。
発音としては、反切上字(父字)の頭子音(声母)と、反切下字の頭子音以外(韻母)とを、組み合わせたものとなる。

「孁音力丁反」は、孁の発音は、力の頭子音と、丁の頭子音以外の音とを、組み合わせて発音するということを表している。

力(リキ)ーRiki
丁(テイ)-Tei
      ↓
     Rei レイ
     
最初のほうで「共に」生んだことが強調されていると指摘したが、小説のように考えるならば、「共に」という伏線がこの「孁音力丁反」にて回収されている。
    

号の読み方

号「大日孁貴」の「孁」の字の発音(読み方)が本文中に記されているのに、これを「おおひるめのむち」などと読むわけがない。
「ダイニチレイキ」か「ダイジツレイキ」、「ダイニレイキ」でもいけるかもしれない。


漢字が持つ意味と音

「孁」という漢字は、「女」+「霝」という2つの漢字を組み合わせで出いている形声文字である。
形声文字は、発音を表す漢字と、意味を表す漢字の組み合わせとなる。
「孁」の場合、発音を表しているのは「霝」。

「霝」は象形文字。
Pictogram (象形). Related to rain (雨) - rain with both small drops and big drops
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「霝」の発音は中国ではlingやlengである。声に出して発音するとリンやレンというように聞こえる。英語のRainにも掛かっているような感じ。
意味としては、雫としての「 零 」や、「 靈/灵(新字で霊)」に通じる。
日本漢字としての「霝」ではレイ(rei)やリョウ(ryo)という読み(発音)で、雨の雫や雫が落ちることを意味する。

「大日孁貴」にも使われている「大」や「日」という漢字は、目に見えるものを絵で描いて、それが文字になっていた象形文字である。「月」も同じく。
「孁」は上記のように形声文字で、「貴」は会意文字である(両手で貝を包む、転じて貴いもの)。


あざな

「孁」という漢字は、「女」+「霝」との組み合わせで出来ている。
組み合わせ漢字そのまま意味ならば女の雫ということ。
中国的な解釈ならば女の魂(霊)や女の神といった意味にも採れる。

ただ一般的には「孁」という漢字は「女の字」という意味になる。
字は「ジ」だが、訓読みでは「あざな」や「あざ」や「めぐ‐む(慈と同じ)」と読める。
字というのは文字という意味もあるが、本名以外の名前という意味もある。
昔は諱(いみな)と字名(あざな)と2種類の名前があるのが普通だった。
諱(いみな)が本名だが、これを使うのは自分や家族くらいで、他の人から字名(あざな、通称)で呼ばれた。現代でも「あだな」と言うが、これは「あざな」に通じているのではないだろうか。
文士や画家であるならば、号と同じく、字名(あざな)で作品を発表するようなこともあった。

字(あざ)は、本名「於保比屢咩能武智」の武智(ぶち)(転じて斑)にも掛けることができる。 




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by yumimi61 | 2018-10-30 14:25