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コンフリクト

我を忘れる

しばらく遠ざかっていた『涙はロンド』の話です。
この本の構成は、以前も書いた通り、第一部が出版するにあたって書いた部分。9~29ページの20ページ。
第二部の「すべてに王道なし」は、1979年(2回目の金賞を受賞した年)に群馬大学教育学部の音楽専攻の学生に対して行った講演の記録になっている。29~75ページの46ページ。
第三部は定期演奏会の生徒の原稿。
第四部は生徒の手紙。

第一部の最後の章はこれです。
夕闇の胴上げ 全国大会三連覇 

 「やめなさい!ダメだ、やめろ!」私の大声の制止が全然生徒達の耳に届かない。
 いつもなら私の目つき、顔色だけでその感情のすべてを察し、素早く判断して行くこの生徒達に、私の声が聞こえない筈がない。完全に無視している。
 昨日の打ち合わせ会で「会場周辺での胴上げや嬌声は慎むこと」と強く言われていたので、必死で逃げ回ったのだが、OBも加わった厚い興奮の輪が、私を追いかけ、足を捕まえ、手を握り、肩を押さえつけ、ついには身体は完全に宙を舞ってしまった。涙が溢れ出て、普門館の丸い屋根が夕闇の中に大きく揺れ、かすんで見えた。見渡すと胴上げを囲む、女子部員と父兄の輪が。これも涙の中で痛いほど大きな拍手を送っている。
 宙に舞いながら、私は感謝の気持ちで一杯だった。叱って叱って叱り抜いた練習の日々。口汚く罵り、厳しい規律で縛り付けた部活動。どんなにか辛くて長い毎日だったろう。
 時には、五、六時間休みなしの練習、わずか一小節が吹けなくて何度も罵声を浴びながらじっと耐えた子。鼻水と涙が一緒になって、それでも楽器を口から離さなかった子。大太鼓の陰で泣いていて「顔を見せろ!泣いてうまくなれるのなら、もっと泣け!」と余計に叱りつけられた子。多感な年代の子供達に気違いになってわめきちらしたこの男に、今、生徒達はすがりついている。泣いている。



普段は怖い怖い顧問の顔色を窺って行動するような生徒たちが、全国大会3連覇した時には、その顧問の言い付けを平然と無視したという。
顧問の注意の言葉が顧問の本音ではないことを十分に察し、言い付けに従わなくても許されると分かっているから無視できたのであろう。
顧問の価値が金賞にあるということを嫌というくらい知っていて、それに応えたのだから私達には何でもする自由があると思っているから出来る。
だとしたら周囲の大人、つまり保護者やOBが冷静になって、禁止事項くらい制するべきだろうが、一緒になってやっている。
そこにいる全ての人の価値がコンクール金賞にあるからだ。
金賞をとった自分達は特別だと思うから、他のことがないがしろになる。

この3連覇は1980年のこと。中・高校生の全日本吹奏楽コンクールが普門館に固定されて4年目にあたるが、短いながらも大騒ぎした様子が記されている。
普門館での全国大会の際には、必ず「うるさい」という苦情が近隣住民から寄せられていたそうだ。マナーは年々悪くなっているという評判であったが、中高層住居専用地域にある普門館の近隣住民は何十年もこの狂乱に付き合ってきたわけだ。

「やめなさい!ダメだ、やめろ!」私の大声の制止が届かない。
興奮の輪が、私を追いかけ、足を捕まえ、手を握り、肩を押さえつけ、ついには身体は完全に・・・
涙が溢れ出て・・・かすんで見えた。


胴上げだから良いけれど、これがもし誘拐の場面だとか、輪姦の場面だとしたら、どうですか?
やってはいけないこと、行うべきでないことをするという意味では、同じではないでしょうか。
集団心理の怖さというか、欲望を貪欲に追い求める恐ろしさというか。
これが許されてしまうと、違う場面でも、やめてとかダメとかいう言葉は本音ではない、と思われてしまう恐れがある。


誰のために生きるのか、何のために生きるのか

あとがき

 生徒達ときっぱり別れる積もりで、その思い出の集大成として、この本を書き始めたのに、今、こうして書き終えてみると、どうしたことか、むしろ、彼らのもとに戻りたいという思いが一層大きくなっている自分に驚いています。
 それにしても、日が経つにつれて、生徒への思いが次第に募ってくるというのはどうしてなのでしょう。
 書き綴る一節一句の中に、彼らの泣き顔が浮かんでは消え、消えては現われ、遅い筆を更に遅くさせてしまいました。
 両手を広げても、とても抱えきれそうもないほどいっぱいの思い出は、不思議なことに、それがもうずうっと遠い昔の出来事のように思えてしまったり、また、昨日の事のように鮮やかに登場したりして、私の身体の中を駆け巡りました。
 そして、あの時なぜ「死んでも彼らと離れたくない」と言い張らなかったのか、なぜ「絶対、絶対、絶対嫌です」と、もっと頑張らなかったのか、「意気地なし!」と私を責めつける、もうひとりの私の叱咤に沈み込む毎日でした。
 私はこの一年、生徒と離れてみて、やっとわかりました。生徒を失ってみて、初めて気がつきました。やはり、私は生徒と離れていては、とても生きて行けそうもないんだと。
 しかし今ごろ気がつくなんて愚かなことです。生徒達を諦める積もりでこの本を書き始めたのに、本当にどうしたことでしょう。
 往生際の悪い男です。


(夜も遅くなってしまったので続きは明日になります)






by yumimi61 | 2019-08-26 18:32