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震動

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どんな小さなものも見えていた 何も見えなくなった

怖かったものがたくさんあった もう怖いものもない

言葉ひとつに幾つもの思いが乗っていた あらゆる言葉はひとつの思いにもならない







「アリってすごいよね。自分より大きなものも運べるんだから。」
「うん、そうだね。そういえばこの間、玄関のところにいっぱいアリがいたの。アイスかなんかこぼしておいたでしょ。」

それから数日後、彼はまた同じことを言った。

「アリって、自分より大きなものも運べるんだよ。」
「みんなで集まって、おみこしみたいだよね。」
「一人だって運べるんだよ。」
「人も運べるじゃない、ダンボールとか。」
「違うよ!アリは一人だって自分より重い大きなものを運べるんだよ!」

強くなった語調にはっとした。

彼の心は震えていたのだ。
アリが自身の体より大きなものを運ぶ、ということに。

この間と同じことを言ったのもそういうことだった。
「アリが自分より大きなものを運ぶんだよ」
その言葉には、震えが込められていたのだ。
彼の中に生じた震えを伝えたかったのだ。


何もかもをあたりまえだと思うようになったのはいつからなんだろう。


かたつむりが見つけられなくなった。
学校からの帰り道、筆箱の中にたくさん入れて持ち帰ったかたつむり。
かつてあんなにいたのに。かたつむりがいなくなってしまったと思った。
どうしてかたつむりがいなくなってしまったのか理科の先生に聞いてきてと子供に頼んだ。
「かたつむり見かけるよ、時々。」
ある日の夕方、息を切らせて私を呼びに来た。
「かたつむり、ほらいるでしょ。」


子供の頃、天井の模様や壁のしみが怖かった。
人の顔に見えたり、化け物に見えたりした。
否定すればするほど、ますますそれはそれらしくなった。
無事に朝が迎えられた時には心底ほっとした。
子供が訴える。二段ベッドの木に何か見える。まだ死にたくないと。
またか、少し憂鬱な気分で答える。
「大丈夫、それは木の模様だから。」
「死ぬわけないでしょ。まだ若いんだし。」


見えなくなったのは、怖いものがなくなったのは、なぜなんだろう。
震えも怖れも理屈で片付けられるようになったのはいつからなんだろう。
それはいいことなんだろうか、悪いことなんだろうか、もうそれすらも分からない。


ただ、彼の怒った顔は柔らかく美しかった。


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by yumimi61 | 2007-09-25 20:59 | photo