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片見月

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いつかきっとわたしは いつかきっとあなたは

いつかきっとわたしたちは

そらをみあげておもうだろう

ここをともにあるいてゆこうと






『あなたとわたしの片見月』 (作り話です)

手の中にぽっかり浮かぶ携帯のあかり。空に浮かぶは十三夜の月。
「ごめん。今夜の十三夜は無理みたい。ほんとごめん!」
もう、何が十三夜は無理みたいよぉ、十三夜の月はちゃんと出てるっていうのにぃ・・。
十五夜の夜に約束したじゃない・・ 先約は私なんだからね・・。
仕事で会えなくなった彼にも、その仕事にも、ましてや携帯にあたる訳にもいかず、
雲もなく完璧なほど綺麗に見える月をその日はただ恨めしく思った。
片見月・・ そんな言葉が頭の中をぐるぐる回った。


「確かこのあたりだったんだけどな」
十三夜後の休日、十三夜の埋め合わせをしてくれるという彼の運転する車で、同じ道を何度か行ったり来たりしていた。
この季節の太陽は足早に西へ傾いていく。時折、鳥たちが北へ向かって飛んでいく姿がフロントガラスに映る。
それにしたって月にはまだ少し早い時間なんじゃないの、と言いそびれて、どこか懐かしいその景色を眺めていた。

「あそこだ」
彼が土手の横の少し広くなっている場所に車を止めた。
「行こう」
子供のように今にも駆け出しそうなほど早足な彼の背中を追って私が土手を上りきると、もう草の上に座って彼がおいでの手招きをした。
「うわぁ、すごいいい眺めだね」
「だろ。見て、あっち」
彼が指差すほうに視線を向けると白い月がぽっかりと浮かんでいた。
太陽はいよいよ傾く速度を上げて、空はそれにつられて色づき始めていた。
東の空と西の空のちょうど中間あたりに空へと真っ直ぐ伸びる煙突があって、
ややくすんだ白い煙が微かな夕風に少しだけたゆたって上へと昇っていた。
「空って広いね」
そんな当たり前のようなことをしみじみと言ってしまうような、場所だった。


「この辺りに、小さい頃住んでたことがあったんだ。じいちゃんもばあちゃんも一緒でさ、俺はすごくじいちゃん子だった」
彼のそんな話を聞くのは初めてだった。
「そのじいちゃんが死んじゃった時、あそこに見える火葬場で焼いたんだ」
私はそこから上がる煙の行方を追った。まっすぐに昇った煙は空に吸い込まれていく瞬間に音もなく壊れた。

「俺はまだガキだったから死んだ人を焼くっていう意味がよくわかんなくて、大切なじいちゃんを焼くだなんて、なんてひどいことをするんだって・・
悔しくてさ・・悲しくてさ・・。でもどうする力もないだろう、子供になんて。ただ走ったんだ。煙突から昇る煙を追いかけて泣きながら必死に走ったんだ。
煙はこっちの土手のほうに流れて、この川のところで消えた。川がとても大きくて怖ろしいものに見えたよ。超えられなかったんだ、俺にはこの川が。
その時だった、ここで白い月と真っ赤に燃える太陽を見たのは。あんなに綺麗な空は見たことなかった。だからさ、その空を・・」

その空を・・の続きを彼が濁したけれど、痛いほどの気持ちが伝わってきて、何かを口にしたら涙が一気に溢れてしまいそうだった。
私たちはしばらく沈黙したまま、落ちていく太陽と昇っていく月を、それぞれのピースを確かめるみたいに見ていた。



大好きなあばあちゃんが死んじゃった時、家に集まった人達がお酒を飲んだり、ご馳走を食べたりしていることが、当時の私はどうしても許せなかった。
こんなに悲しい時に、どうしてそんな風にしてられるのかって大人たちが信じられなくて、庭で一人膝の中に顔を埋めていたことが鮮やかに蘇った。
火葬場で、最後のお別れをしなさいと母に促された時も、私は祖母の顔を見ることができなかった。できないまま、祖母は煙になってしまった。


来たときに煙突から昇っていた煙はもうほとんど見えなくなっていた。

「あのね」
「なに?」
「小学生の時に少しだけ住んでいた所がやっぱり川の近くでね、その川の土手でよく遊んだのね。
でもね、その土手があるところで急に高い塀に仕切られてしまって、それ以上先には行けなくなってたの。
その塀の向こうにはとんでもなく不思議な世界があるんだって、あの頃思ってた」
「土手に塀かぁ」
「時々、その塀の向こう側に白い煙が昇るのが見えて、もしかしたらおばあちゃんはこの中にいるんじゃないかとも思ってた。
だけどその事は誰にも聞いちゃいけないような気がして、一人でいつもその塀の前で思いを馳せてたの。
夕方になると、川を渡って、その塀の上を渡って、鳥がどこかに帰っていくのね。
私も鳥になれたら、この中を見ることができるのにって、鳥が羨ましかった」
「わかったの?その塀の正体」
「うん、大きくなって調べた。なんだったと思う?」
「工場」
「うそぉ、どうしてわかるの?」
「勘」
こんな時はいつも思う。彼は私のことをなんでも知ってるんじゃないかって。
最初に出会った時に感じた、初めてなのに初めてじゃない感じにも似ている。
「そこは不思議な世界なんかじゃなくて、どっぷりと現実に根を下ろした大きな火薬工場だったの」
「おばあちゃんはそこにはいなかったってわけだ」
「うん、いなかった」
「人って死ぬんだよな」
煙が空に吸い込まれていくように、彼の言葉が胸にすっと溶けて哀しくなった。


「死んじゃっても・・ 私たちが死んじゃっても・・ また会いたい・・また会いたいよ」
そんな言葉が出てきたことに自分でも驚いていた。
生まれ変わったらとか、死んでも一緒だよ、なんて言葉は聞くだけでも恥ずかしかったのに。
彼も困ったような顔をしていた。そして一呼吸置いてポツリと言った。

「わかると思うよ」

それ以上聞かなくても、彼が何を言おうとしたのか私には分かった。
私は彼に体を寄せて、その腕をしっかりと握った。
美しい景色と暖かな温もりに包まれてとても幸せだった、なのにどうしてなのだろう、この気持ちをなんと言ったらいいのだろう、
胸をかきむしられるように哀しかった。
矛盾した二つの気持ちがどちらもどんどん大きくなって途方にくれた。
美しい哀しみに抱かれながら、私たちは唇を合わせた。
不思議だった、不思議だけれど確かだった。
はるか遠い昔、もしかしたら私たちはこうして寄り添っていたのかもしれない。
もちろんそれは記憶になんて残ってないけれど。

本当に大切だったもの・・ 本当に愛した人・・ それだけは・・

「私もわかると思う」
名づけようのないものに向かってそう呟いた。

「ありがとう」
彼に何度も何度もそう言った。胸の中で。
祈るみたいに。



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亡くなった人の残した品「形見」という言葉は、「片見」という言葉から生まれた言葉です。
大切な人と半分に分けて持つ、という意味があります。



たいせつに

はんぶんもっているものが

あります



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昨日、十三夜でした。一人で、月、見ておきました(笑)。
うちのベランダから見える西の空と東の空。
16時30分~40分ぐらいの間。
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こちらは17時過ぎの東の空。少しピンクに空が色づきます。e0126350_17182443.jpg
by yumimi61 | 2007-10-24 19:31 | picture