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悠久

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有終の美 君は飛び

悠久の夕 君と言う






『悠久の夕』  (つくり話です)


「駅から自転車で10分。公園近く。おまけに新築で南向きの部屋。それでこの家賃。
すごいラッキーって思ったけどさ、もしかして、そのわけってあいつらかな?この辺結構いるだろ」
シンが電柱に止まっていたカラスを指差した。
「考えすぎじゃない。ゴミ捨て場もネットが張ってあるし、いたずらしてるのもまだ見たことないけどなぁ」
「そうじゃなくってさ。ほら、カラスは縁起悪いって言うだろ」
「カラス見たら親指隠すとか?」
「ばか、それは救急車」
「霊柩車じゃないの?」
「そうだっけ?・・・ってそういうことじゃなくってさ、だから、カラスだって」
「うん、カラス、ね」


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東の窓から公園を囲む桜の木が見える。
大きくも小さくもない公園で、木々も芝生もほどよく手入れされている。
桜の咲く頃には沢山の人が訪れていたが、花が終わってしまった今はそれほどでもない。
早く目が覚めた朝には、私はこの窓からその公園を眺める。
木々の向こう側にちらちらとオレンジ色の光が揺れだし、やがて梢の隙間を染めあげる。
そして、その光の塊が梢に突き刺さったかのようになる一瞬を見るのが好きなのだ。
シンが言うカラスにはここへ来た時から気付いていた。
あそこに見える以外にも巣があるのだろうか、何羽かのカラスがとても近いところで確かによく飛んでいた。


「縁起が悪い・・・かぁ・・」
「それ駄洒落?」
「え?」
「だって、カァカァって言うからさ」
「もうっ。2回も言ってない」
「まぁまぁそんな怒らないで。ね、きり」

違うことを考えていた。シンは以前この町に住んでいたのかもしれない、と。
私には、シンがすぐにこの町の風景の一部になったように思えたからだ。


「よし、わかった。きり、別れる時は死ぬときにしよう」
「なによ急に。びっくりするじゃない」
「だからさ。他の理由じゃなくて、俺達が別れる時は死ぬときにしよう。
そう思えばさ、カラスも縁起よく見えてくる。な、いい考えだろ」
シンは時々子供みたいな顔で笑う。
私に何ができるわけでもなくて、むしろほとんどいつもシンに救われているのは私なのだけれど
この笑顔を守りたいと時々本気でそう思う。
「うん。そうだね。そうしよう」

私はまた公園の梢に目をやった。夕方の東の空は、朝よりその色を薄くしている。
なんと形容したらいいだろう、ピンクでも桃色でもない。
弱ったものや過ぎていくものをも穏やかに包んでくれるような薄く儚い色。
ほんの少し悲しみを帯びている。
シンが子供のような笑顔の後にふと見せる静かな横顔に似ている。

カァカァ。
今度はほんとにカラスが鳴いた。
「別れる時は死ぬときだから。それと・・」
カァカァ、カァカァ、カァカァ、カァカァ。
シンの声をさえぎるようにまた鳴いた。
私達は思わず顔見合わせて声を立てずに笑った。


「別れる時は死ぬときだよね」
明日の朝、シンにそう言おう。



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1枚目の写真は14日月曜日に撮ったものです。
今日は葉っぱがだいぶ増えています。↓
2枚目の写真は4月上旬撮影。


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by yumimi61 | 2008-04-17 00:35 | photo