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休戚

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休日の匂いと 夏の杞憂

究極の希求は あなたの匂い




『休戚の昼』 (つくり話です)


「あいつら元気にしてんのかな」
髪の毛の寝癖、頬についたシーツの痕、時計を見ればもうすぐお昼。
よほど疲れていたのかしらと心配したいのはこっちのほうなのに、起き抜けにコウはそんなことを言う。
「あいつらって?」
「ほら、春先にいたろ。カラス、カラスの雛」
「カラスの雛?」
コウは、冷蔵庫から取り出したガラスピッチャーから大きめのコップになみなみと汲んだ麦茶を飲みながら頷いた。
「あいつら」が、彼の友人でも、少し前まで隣のアパートに居た私達と年頃の似ているカップルのことでもなく、カラスだったということに驚かなくもなかったが、休日の目覚めに不釣合いなコウの心配は、なんともコウらしくて私はほっとした。


窓から見える木々は、今が盛りとばかりに葉を茂らせ、春の繊細な色彩は青葉の輝きに取って代わっていた。
カラスの巣はその葉に埋もれるように、相も変わらずそこにあったのが、もぬけの殻なのか雛はもちろんのこと、そこに通う親鳥の姿も見えなかった。
そういえば、家のまわりで見聞きしていたカラスの鳴き声や羽ばたき自体、春先に比べると随分減った気がする。
「確かに前より見かけないね。雛が巣立ちしたからなのかなぁ。それともカラスも暑さが苦手で避難してたりしてね」
「避難するってどこにするんだよ~」
「寒い国」
「それじゃ、渡り鳥になっちゃうだろ」
「それもそうだね」
「でも黒は吸収する色だからカラスはまじ暑いかもなー」
「それもなんか違わない?」
「さちはいいよ、夏生まれだから」
「そんなの関係あるのかなぁ」

夏生まれだから夏に強いというわけでもないと思うのだが、太陽に誘われ開く花や葉のように、夏の空気の中に立ち込める土や人の匂いは嫌いではなかった。
「コウ~」
エアコンもつけずにお昼まで寝ていたコウに纏わりついた。
コウの背中に頬をつけて、ゆっくりと深呼吸する。
「なにしてんの、暑いんだけど」
「夏の匂いを嗅いでるの」
「へんたいっ」
「へんたいだもーん」

コウを待っていて朝食を食べそびれ、お腹が減って少し前に焼いて食べたパンケーキの匂いが部屋にはまだ微かに漂っていた。
コウの匂いとバターの匂いがごちゃまぜになって、ちびくろサンボのトラのように蕩けてしまってもいいような気持ちになった。
一緒に消えてしまってもいいと思うほどの想いの強さは、あのトラのように破滅へと進んでいるという証なんだろうか。
それとも・・・。

「あいつら元気にしてんのかな」
さっきのコウの声が耳の中に木魂して、目を閉じた。

窓ガラスに反射する強い日差しの中を横切るカラスを見たような気がした。


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by yumimi61 | 2008-09-30 21:17 | photo